【北島一周】ワイカレモアナ湖三日目・大雨トレッキングからのいい夜【54日目】
ワイカレモアナ三日目
雨だ。大雨の音がする。まだ5時なのに韓国人グループが起き始めた。
早朝にも関わらず靴でドタバタ動き回るしキッチンでガチャガチャやっていて音の配慮が一切ないから、嘘だろ〜って思いながら起きた。
他はみんな寝ているのに!
もしかして彼らは朝便のフェリー組なのかな?
私は昼のフェリーだから余裕があるけど……
それにしても早すぎる、っていうかうるさすぎるよ〜
外に出て雨を眺める。
結構強い雨で風もあるけど、まあそこまで大変そうではない。
豪くんやアグネスたちも起き始めたけど、みんななんか落ち込んでいる。
雨が悲しいらしい。
さらに話を聞くとアグネスたちは雨具を持っていないんだって……嘘でしょう……
トレッキングに雨具なしはやばすぎる。
ただでさえ天気の変わりやすいニュージーランド、しかもここは山だ。
というか天気予報でも元々雨だったし、フェリー・バス予約やガスなしも含めてちょっと計画性がなさ過ぎる。
トンガリロ行った時はどうしたの? って聞いたら、いい天気だった、って……
ニュージーランド旅初心者すぎない……? 大丈夫かな、このカップル……
豪くんが、9時まで待てば止む! と言っていた。
みんなそれを信じて9時まで待つそうだ。だけど私は先に行くことにした。
せめて三十分くらい待とうよってめちゃくちゃ引き止められたけど、彼らと違って私はフェリーを予約しているから遅れるわけにはいかない。
それにこの雨がそんな数時間で止むはずがないってなんとなくわかるもの。
どうせ止まない雨なら、早く行ってハットでのんびりフェリーを待っていたい。
ふと時計を確認する。
……?
その時、iPadの時間と腕時計の時間が1時間ずれていることに気がついた。
何があった? どういうこと?
どっちが正しい時間なの??? とアグネスに聞いてみると、アグネスもびっくりしていた。
そして二人で気づいた。サマータイム始まった!!!!!
すっかり忘れていたよ……
そうでした、この国にはサマータイムがあるんだった。最近ずっと一人だったから誰も教えてくれていなくて忘れていたよ……
じゃあ5時からうるさくしていた韓国人グループは、実は6時に起きただけだったのか!
なら普通だなあ。
うるさいのは困ったけど、早すぎるわけじゃなかった。
勘違いしていてごめんね。
電波を拾ったら絶対に連絡してね、とハグをしてみんなと別れる。
そして歩き出す。雨の中、一人で。気が楽だな〜〜
歩き出すと思った通り、木が雨をカバーしてくれていてそんなにしんどくない。
屋久島でトレッキングしたときの方が大雨だった気がする。
ただ足元がやばい。
最初は泥を避けて歩いていたけど、途中からもう気にならなくなった。
足首まで泥に使っても何も思わない。
泥の中をとにかくずんずん進むから足はもう泥だらけ。
歩く度に靴の中の水と泥がびちゃびちゃなって、重たくて、まるで森の一部として歩いているみたいだった。
風の日、曇りの日、晴れの日、そして雨の日。三日間で全部体験できたのは結構嬉しいなあ。
想像以上に歩きにくくて体力は奪われたけど、バックパック有りで3.5時間で制覇できました。やったね〜
5時間っていう予想はやっぱり嘘でした。
雨だから音楽も聞けないし、ただただ歩くだけだったけど、割と楽しかった。
着いたのはいいものの、時間が想定外。
フェリーは14時半なのに、11時には着いてしまった……
早めについてハットでゆっくりしたかったから万々歳なんだけど、狭いハットにはすでに1グループが いて、キッチンを占拠していた。
昨日も2回ほどすれ違ったいい人たちっぽかったんだけど、グループに入っていく勇気はないので、空いていた寝床の部屋にこもることにする。
身体中がびちゃびちゃで風邪をひきそう。
そこから約3時間、ものすごく長い時間だったな……だけど、絵を描いたり花札で遊んでいたらなんとか時間がすぎた。
13時ごろ、トイレのために外に行くといつの間にか雨が止んでいる。
晴れそうだ。やったね〜
キッチンにいたグループのうちの一人も外に出てきて、少しお話しした。とてもとても優しそうないい人だった。
彼らのうちの三人はフェリーに乗るんだけど、あとの二人は人数オーバーでこの先まで歩かなきゃいけないんだって。そしてフェリーに乗った組がトラックエンドに迎えに行くらしい。
乾かしていたTシャツを取りに行ったとき、外でタバコを吸っていた人に声をかけた。
この湖歩きでこの人の姿を見かけるのは3回目。
さっきみんなの話を盗み聞きしていて、やっと声をかける決心がついたのだ。
「こんにちは」、そう声をかけるとちょっと驚かれた。
「えっ、あ〜……そうか、日本人かな? とは思ってたんだけど」
私はマレーシア人かと思ってた、と言うとそれははじめて言われた、と笑われた。
旅をしていて会う四人目の日本人はユウタさんと言う人。
ネイピアのリンゴ農園で、今ハットにいる他の五人と一緒に働いているんだって。
アジア旅のためのお金を貯めるためにニュージーランドに来た人で、ニュージーランド巡りにはあまり興味がないらしい。時間もないのでバーっと喋った。
みんなが話題にしているビザのこと、コロナのこと、ロックダウンのこと。日本語でこんなに会話するのは久しぶり。
同じフェリーに乗るようだから、また話せるといいな。
準備を整えてハットを出ると、昨日滝ですれ違ったおじいちゃんに会った。
滝のそばの道に腰掛けて、植物図鑑片手に植物の名前を調べていたとってもかわいいおじいちゃんだ。
「君のパートナーにさっき会ったよ、どうして一緒にいないの?」
うわ〜〜〜豪くんのこと言ってる。
めちゃくちゃに否定しておいた。パートナーじゃないし彼は日本人じゃないしただハットで会って一緒に歩いていたただの友だちです、って。
おじいちゃんはすごく優しくて、話しやすくて、そこからフェリー乗り場までずっとおしゃべりしていた。
おじいちゃんは今はもうリタイヤしているけどお医者さんで、奥さんと一緒にネイピアに住んでいるそうだ。
ネイピアにきたら電話してね、と電話番号をもらった。
フェリーは三十分遅れでやって来た。
波が高くて、車が置いてあるオネポトまでいけないらしい。
別の場所に降ろしてから車で送ってあげるね、と言われた。
朝の大雨から一転、めちゃくちゃ晴れたよ〜やった!
フェリーの船員さんはマオリの人で、この間まで日本にいたんだって!
日本人好きで優しくていっぱい話してくれた。
船と風の音に私の声は負けてしまうから、耳元で大声で喋らなくちゃいけなくて大変だったけど……
1時間くらい乗っていたのかなあ。ホリデーパークに着いた船を降りて、おじいちゃんと別れて、それから車に乗ってみんなと移動。
ネイピアリンゴ農園組が、ネイピアにきたら遊びにおいでよ! ってバックパッカー の名前を教えてくれたんだけど忘れちゃった。
電話番号も渡すだけじゃなくてもらっておけばよかったなあ。
チリからきた女の子の名前がパオリーナって言って、すっごく可愛いなって思ったことだけ覚えている。
名前だけじゃなくて本人がとても可愛い。いい子だなあって、初対面でもわかる人だった。
靴も服もびしょびしょですが、なんとかグラ子の元に帰って来ました〜!
もうヘトヘトです。大雨トレッキングは大変だね……
マオリの船員さんが、すぐ先にあるワイカレモアナとはまた別の小さな湖をオススメしてくれていたんだけど、ちょっと疲れすぎて無理。
滝とか山とか行ってみたいところがあったんだけど、行くなら先に行っとけばよかったな〜
フェリーの時間に押されてもう4時になってるし、シャワー浴びたいからワイロアまで帰ろう。1時間ドライブです。
とにかくゆっくりしたいので、無料で泊まれるところもあるけど有料キャンプ場に今日は泊まります! 洗濯物もしたいし、シャワー浴びたいし、のんびり寝たいし、キッチンでささっと料理したいし。
と思っていたらアグネスから連絡が。
そうだった、車に着いたら連絡するって言ってたのに忘れてたな〜
あまりにも疲れているから断りたかったけど、行きたい気持ちがある。
ふわっとした返信をして相手に判断を委ねた結果、行くことになりました。
アグネスたちはトラックの終わりまで歩いて豪くんの車に乗せてもらう予定だったはずなんだけど、途中で諦めて早い段階で雨の中フェリーに乗って帰って来たらしい。
おいで! って言われたら嬉しくなっちゃうから、行くしかないよね。
車で行こうか迷ったけど、そんなに遠くない距離だったので歩いて向かう。
セルフコンテインカーのアグネスたちは私よりも泊まれる場所が多くて、今日は公園にいた。
はじめてお邪魔したセルフコンテインカーの車!
まだ旅を始めて一週間くらいの彼らのピカピカの車はベンによって早速改造されていて、本当にいい車だった。いっぱい説明してくれた。嬉しいよね〜新しい車。
それから三度目? 四度目のニュージーランドのいい場所共有をしたり、普通にお互いのことを話したり。じっくりちゃんと話すから、英語が追いつかなくなって止まってしまう。
でもアグネスはちゃんと聞いてくれる。止めないで、なんでもいいから話してみて、って言ってくれる。
たくさん話して、笑って、遊んで。アグネスは私にとってお姉ちゃんみたいな存在になっている。
ベンは時々話に参加するだけで、強面な見た目もあって私は嫌われているんじゃないかってドキドキしてしまっていたんだけど、笑うときには豪快に笑うし、ただ裏表のない明るい性格なだけだってこともわかって来た。
途中、アグネスのスマホに豪くんからメッセージが来た。
爆笑しながらメッセージを見せられ、わたしの顔は固まってしまう。
わたしに会いたいんだって。恋しいんだって。
は〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜……
どうする? なんて返す? っていうか彼と付き合っちゃえばニュージーランドのビザもらえるんじゃない? いいんじゃない? って爆笑しながら茶化すアグネス。
いやだ。絶対いやだ。
thank you、って返信しといてくれたみたい。ありがとう。
私はお土産にチョコレートのお菓子を持って来ていた。
本当はビールでも買ってこようかと思っていたんだけど、チョコレートは大正解だった。
彼らはアルコール飲まないんだって!
雰囲気からして割と普通の人っぽいけど、もしかして実はいい人たちかな? と思ったけど、ただ単に若いうちにもうやり尽くしてやばいところまでいってしまったということらしい。
だからずっとみんなでお茶を飲んでいた。
彼らもチョコレートを持っていて、お茶とお菓子でずっと楽しく過ごしていた。
これ、普通のことっぽいんだけど私からしたら結構信じられないこと。
今まで会って来た若い人たちと一緒に過ごす時にはいつも、煙とお酒がそこにあった。(だからわたしにはあんまりニュージーランドで若者の友だちができなかったのだと思う。大人たちはみんなそこをもう超えていて、話しやすかった)
ベンは葉っぱ、アグネスはシーシャが好きらしいけど、基本的にはクリーンなんだって。
東京にはシーシャいっぱいあるよ、っていったらやっぱり東京に行かなきゃ! って言ってた。(いい機会だからずっと持ってた葉っぱをあげた。ベンは喜んでた。アグネスはあんまり好きじゃないらしい。)
夜9時をすぎて、眠さが限界になって、帰ることにした。
一キロもない距離だったけど、危ないからって二人がキャンプ場まで送ってくれた。
日本の話をする度にアグネスの口から流れる「東京ドリフト」のうた。
ベンが子供みたいにはしゃぎながら披露する「サムライジャック」って言うアニメの1シーン。
楽しくってしょうがない夜だった。嬉しくって幸せな夜だった。
大雨の中歩いた数時間、一人ぼっちで暇していたハットでの数時間が嘘みたいに。