車中泊日記inニュージーランド

【北島一周】一番人気のデイハイク・トンガリロアルパインクロッシング【67日目】

 早起きしなきゃ! という気持ちのせいで勝手に4時半に目が覚めました。

 流石にそれは早すぎる……と思ったんだけど目が冴えちゃって眠れない。しょうがないのでぱぱっとお弁当を作って身支度。登山の定番、茹で卵をいっぱい作ったよ。

 といっても長くても7時間くらいの登山なので持ち物はほとんどなくて、水とお弁当とおやつとカメラだけ。

 デイハイクって身軽でいいな。 

 

 6時半出発のシャトルバスに乗るために駐車場へ。

 駐車場に車を置いて集合したのち、スタート地点までバスで送ってもらい、自分の車に向けて歩きながら帰ってくるコースなんです。

 6時集合を全員が守ったため、バスは少し早めに出発しました。

 みんなが時間を守ることなんてなかなかない! って運転手さんがびっくりしていた。
 確かに。ここはあまり時間にルーズなニュージーランド だもんね……

 

 どうやら今日はトンガリアルパインクロッシングの最初の日らしい。

 コロナの影響と雪の影響でずっとバスは運休していたんだって。
キャンセルにキャンセルを重ねた人たちが多かったのか、バスには30人ほどの人がいてほぼ満員。
 海外から来た人もいるけど半数以上がキーウィ。カップルや若者グループで車内は賑わっていました。 

 普段だったら(国境が開いていていろんな国の人がいるから)こんなにキーウィがいることはない、本当に珍しい……! って、とにかく運転手が驚いてい他のが印象的だったな。

 わたしは助手席に座らせてもらった。運転手さんとおしゃべりをしながら約30分で出発地点にたどり着きました。

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 ドライブ中の朝焼け。きれいだなあ。

 今日晴れそうだ、よかった〜!

 あの山は「ロード・オブ・ザリング」に出てくる山だよ〜、って説明してくれたけど見てないから分からない。
 なんで見てないんだ! って言われたけど、あまり興味がなかったんだよね……

 富士山に似てるでしょう、って言われた。確かに。
 形は富士山のほうが好きだけど、周りの景色は圧倒的にこっちの方がいいなあ。

 

 一番最初のバスだったおかげで、7時前には入り口に着きました。

 バスから降りてごった返す人ごみを抜けて、ささっと歩き出します〜〜

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 私の前にはカップルが1組。後ろにもカップルが数組。グループも数組。
 今のところ一人なのは私だけみたい。ちょっと寂しい。

 歩き出してすぐが一番きれいな景色だったな〜……

 まだ太陽が届く前の静かな空気がとてもよかった。

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 もらった地図によるとここに一つ見所……温泉? があるみたい。

 前のカップルは素通りしていたけど、私は覗いてみることにしました。

 微かに硫黄の香りがする。でも温泉みたいなものは見つけられませんでした。

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 滝と川があった。それだけだった。

 

 正規コースに戻って、ここからしばらく登り坂が続きます。

 しんどいよ〜ってマップが言っていた通り、ちょっとしんどい。
 だけど階段もあるし整備されているし、しんどいだけで危険じゃない。太陽も少しずつ出てきました。

 予報通りちょっとずつ曇ってきたのは心配なところ……

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 そこからしばらく歩くと景色が一気に変わって雪山です!

 !

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 やっぱり雪山歩きだった!!!

 (調べ不足)

 確かに遠目から見て雪山だったけど歩くコースに雪があるとは思ってなかった。
 普通にめっちゃ雪じゃん。きれい。楽しい。

 

 ……と思ったのも束の間。

 強い風が吹きはじめて、一気に寒くなった。多分もうマイナスゾーンに入った。

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 そして「天気と体調はどう? 戻るなら今です」という看板が現れた。

 思い出すのは、バスでの話。もし進むのが困難なくらいの天気になってしまったら、電波の届く場所まで戻ってバス会社に連絡をしてくれ、という話だった。


 えっと……これは、どっちでしょう? 
 雪は降ってないし、風も立っていられないほどは強くないし、まあ大丈夫だよね。

 ただここからは急な登りと下りになるみたい。雪だから慎重にいかないと。
 幸い私の前には1組のカップル、後ろにはおじさんズがいるから、もし何かあっても気付いてもらえる。

 ということで意を決して登りはじめました。

 舗装されていないきつい登り坂を歩くのは想像以上に怖かった。
 雪だし。滑るし。滑って降りたら死ぬし。一人だし。

 それでもなんとかゆっくり登り終えて、頂上付近にたどり着きました。

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 頂上はあと少し、、なんだけど、

 前が見えません。

 嘘でしょう……

 

 ここからは本当に大変で写真を撮ってない。

 立っているのがやっとな強い風に真白の視界。

 唯一救いなのは、雲の中に入ってしまっただけで吹雪ではないということ。

 吹雪だったらもうどうしようもなかったね……

 

 ここからは急斜面の下りだなんて、信じられない! 
 どのくらいの斜面か見えないけど、登りと同じくらいの斜面だったらかなりやばいぞ。

 シャトルバスはよりにもよってなんでこういう日を初日に選んだんだろう……
 昨日まではわりと晴れていたのに!

 

 私の前を歩くカップルは、そんな中でも果敢に下山に取り組んでいた。

 ええ〜、本当に? 危険すぎない? 超急斜面の雪山視界最悪だよ?
 とハラハラしながら見守っていると、下山をはじめてすぐに女の人が座り込んでしまった。

 どうしたんだろう。大丈夫かな。

 しばらくするとその子は男の人に支えられながら戻ってきた。
 あまりの怖さに泣いてしまっている。

 そうだよね……

 そこから私たちは立ち往生。
 待っていれば雲が過ぎ去るのか、戻るべきなのか、進めるのか……分からなくてただ立っていた。


 体が飛んでいきそうなほどの風が常にびゅうびゅう吹いている。めちゃくちゃ寒かった。 

 カップルは周りの様子を見ようとあっちへこっちへうろうろ。

 杖持ってくればよかったなあ。
 杖があれば一人でもなんとか降りられたかもしれない。

 

 先の見えない急斜面、目印なしの道。

 本当に参ったなあ。

 戻ると言っても、看板で注意されていた通り、戻ることもできない。
 ここに来るまでにものすごい登ってきちゃっているから、どちらに行っても同じ状況なのだ。

 

 困ったな〜〜と頭を抱えていたその時。

 

 一人の男の子がやってきた。 

 

 ……この雪山の中、パーカーにランニングシューズで。

 

 あまりにも場違いなその格好にびっくりしてしまう。

 重装備のカップルを横切って彼はこっちにやってきて、それから私にこう言った。

「Hi! How are you?」

 なんでこの状況で、ただの道で会うみたいに明るく言えるの!?

 しかも、そんな格好で!

 頭の中でめいいっぱい突っ込みながら、元気だけど天気が最悪だね、って答えた。

「そうだね、ちょっと悪いね。まあ大丈夫だよ」

 全く不安そうじゃない彼はそういう。
 ちょっとじゃないよ。超最悪だよ。
 不安でいっぱいのわたしとは反対だ。

「私は君の格好が信じられないし、天気も悪くてどうしようか困ってるよ……君はこのまま進むの?」

 彼はニッコリ笑って、相変わらずの元気な声で答えた。

「降りれば雲から出れるよ! 一緒に行こう」

 この人、バスにはいなかった。 
 こんな軽装備の人がいたら目立つに決まってるのに。

「でも先が見えないよ」

「大丈夫だって。ほら行こう」

 

 彼はジェームズと名乗った。

 強い風の中たくさん喋るから、とっても大変だった。
 慎重にいかないと滑りそうだけど、英語にも集中しなくちゃで。

 でも、いっぱい話ができたから楽しく歩けた。絶対に。
 あんなに不安がいっぱいだったのに、誰かがいるだけでこんなに楽しい気持ちになれるんだって知らなかった。

 とはいえ急斜面は本当にすごかった……
 想像の数倍の傾斜で、わたしは時々ずるずる滑ってしまった。

 その度に引っ張ってくれて、ありがたかったなあ……

 

 ジェームズは日本でスキーインスタラクターとして働いてことがあるんだって。

 日本語は全く分からないみたいだけど、ジェームズの彼女はひらがなを勉強しているらしい! 自分の国や言葉とつながりがある人ってなんだか嬉しい。

 もうすぐスカイダイビングの資格をとるための勉強を始めるんだ、って言ってた。
 なるほど、この人はアウトドアに特化した人なんだなあ。だとしてもその装備は信じられないけど……

 一緒にいた時間は多分30分くらいだったけど、とにかくいっぱい喋った。

「ジェームズはバスにはいなかったよね、どうやってきたの?」

「多分ミユキの次のバスだったんじゃないかな」

 ……え?

 だって6:30のバスに乗っていた30人の中で、今先頭を歩いているのはわたしなのに??????

「走ってきたから、ここまで」

 ……え!? どういうこと??????

 ここはニュージーランドで一番人気のあるトンガリロ国立公園のハイキングコース。
 1日かけて歩く、景色がいいことで有名なコースだ。
 すごく有名なグレートウォークの一つなのに、彼はあくまで走りに来ただけらしい。 
 ここまですごい登り坂や雪山だったのに、なのに、彼は走ってきたらしい。
 どういうこと……?

 よくわかんないので、まあピンチを助けてくれた雪山の妖精だと思うことにした。
 ありがとうね。

 超傾斜を降りると、このコースで一番の見所「エメラルド湖」があったけど、進むことだけが目標のジェームズはそれを華麗にスルー。

 彼の頭にあるのははとにかく進むこと、走ることだけ。
 有名なポイントで足を止めることは一切しない。おそらくカメラも持ってない。

 このコースに何度も来てるのかな? って思って聞いてみたけど、はじめてだって言っていた。
 なのに見所に興味がないなんて……

 「多分あれが有名なブルーレイクだね」と言うだけ言って、そのまま進む。
 (わたしもそれを信じたけど、後で調べたらエメラルド湖でした)

 

 しばらく進むと、超傾斜が終わり、雲も晴れ、ようやく雪もなくなって普通の道になった。
 もう一人で歩ける。よかった、本当に助かった!

「本当にありがとう、ジェームズは先に行って!」
 って言って、そこでお別れすることにした。

 あなたはどんどん走りたいよね、って。それぞれのペースがあるからね。

 そう言ったらにっこり笑って、わかった、じゃあね! って走り去っていった。

 ……

 どんどん姿が小さくなる。
 駆け出したジェームズはあっという間に見えなくなった。

 雪山であんなに不安だったのに、今の私はただ拍子抜けしている。

 雪山の妖精に助けられたなあ。おかげさまで難所を乗り越えられた。
 本当にありがたかった。

 

 ……とりあえず、私は湖の写真が撮りたい。
 メインのスポットまで戻ろう。

 踵を返して、来た道を少し戻る。

 ここがさっきスルーした見どころの有名湖たちです!

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 天気が惜しいけれど、晴れていたら真っ青らしい。
 少しだけ散策する。

 さっき右往左往していたカップルも無事に降りられたみたいで、湖の脇でお弁当を食べていた。

 確かに休憩してもいい頃だよな……と思いつつ、さっきのジェームズの早さにつられている私は先に進むことにした。

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 あんなに天気が悪かったのが嘘みたい。
 標高が下がるにつれて霧が晴れていく。

 

 でも、山の方を見ると相変わらず雲と霧の中。

 さっきはあんなところにいたんだなあ。

 

 とにかく、あとは楽ちんな下り道!

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 好きな曲を聴きながら、私も真似をして走ってみる。

 登り坂を走るのにはびっくりしたけど、かく言う私も山を走るのは結構好きだったりする。

 広い空の下、いい景色の中、下り坂を好きに走るのはとっても気持ちがいいのだ。

 

 きれいなところだ。今日も、いい日だ!

 

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 下り道を終えると、グラ子の待っている駐車場への看板が現れた。
 あっという間にこんなところまで来ちゃった。

 

 そして一気に景色が変わり、森になる。

 雪解け水かな? 川がキラキラ光っていてきれい。

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 反対側の道から歩き出す人もいるみたい。

 少し年配のグループとすれ違ったとき、視界が見えない頂上について伝えた。
 後ろを振り返って目をやると、相変わらず雲でいっぱいになっている山。

 うーん、と言いつつ、それでも一応行ってみるよ、って彼らは進み出した。 

 みんな私よりずっと経験のある人たちだろうから大丈夫だろうな。
 私ももっと山と仲良くなりたいな。

 

 グラ子の場所まで、残すところあと数百メートル。
 というところで、向こうのほうからまた人がやってきた。

 荷物も持たず軽快に歩いているのは……

 

 ジェームズだ!

 

「やっぱり早いね、いつ着いたの?」

「結構前だよ。駐車場ついて、昼寝もしちゃった」

 すごい。私だってほとんど休まないで歩いているのに。

「どこいくの?」

「実は友達も歩いているんだ。ちょっと迎えに行こうかと思って」

 すごい。コースを終えたのにさらに戻ろうとしてるなんて。本当に動くのが好きなんだな。

 少しだけ立ち話して、それから手を振った。

 

 私はグラ子のいる駐車場へ、ジェームズはまた登り坂へ。

 ついに、デイハイクが終わる!

 

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 7時くらいにスタートしたから、大体5時間くらいで歩けました。ちょっと早い方だと思う。

 スマホがあったら歩数がわかるのになあ。

 

 朝から歩くと時間がまだまだあるな!

 楽しかったからそんなに疲れてないし、次はどこへ行こう。

 

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滝のウォーキングコースにやってきました。
こういう湿地帯の道、大好き!

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左側に見えるのはさっき見ていた雪山。

いつかは一週間のロングトレイルにも挑戦してみたいな。

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 そして一気に南下します! 今日の移動距離は大体150kmです。
 前にも行ったことがあるワンガヌイへ。

 

 

 

 今日のキャンプ場はワンガヌイ唯一の無料キャンプ場! 
 出来立ての場所なのでとても綺麗なトイレでした。飲み水もあるしとてもいい。唯一の難点はメイン道路の真横なので夜も結構うるさいこと。あと混んでる。
 数ヶ月前に来た時は人の少ない穴場スポットだったのに、今では広く知られる人気キャンプ場になってた。