車中泊日記inニュージーランド

【北島一周】今までで一番英語を喋った日【51日目】

 なんでもない駐車場で迎える朝。今日は一日中雨だと思っていたのに、窓から光が差し込んできたから今日も早起き。
 まだ町も起き切っていない朝6時半、なんとなく散歩をしたい気分になって町を歩いてみた。
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 治安が悪いって言われてきたけど、きれいでいい町だよなあ。

 町の入り口には木製の可愛い灯台。(海じゃなくて川沿いにあるのはどうしてだろう。 小さな川なのに……)
 そしてその川沿いには散歩道とお店たち。
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 このくらいのサイズの町って可愛くて大好き!
 早くから開いているカフェみたいな場所に、マオリっぽいおっちゃんたちがたむろってた。
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 川沿いのベンチには倒れ込むように寝ている人がいる。オレンジ色の服を着た清掃係の人たちがゴミ拾いをしたりゴミ箱のゴミを回収したりしている。こうやって町の朝が始まるんだなあ。


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 そして気づいたんですけど、もしかして今ってめちゃくちゃ春ですね……???
 気づかないうちに桜が葉桜になりかけている! 花粉症がなかったから春って気がつかなかった……

 車に戻って絵を描く。スマホをくれたリリヤと先日誕生日を迎えた妹へ似顔絵をプレゼントしたかったのだ。ちょっと遅くなっちゃったけど、いいよね。絵を描いて、花札をして、車の掃除をちょこっとして。そうこうしているうちに十時になった。図書館の時間です!

 今日は、明日から行くことにしたワイカレモアナについて調べます。
 三日後は雨みたいだけど、明日と明後日は晴れみたいだから、ちょうどいいでしょう。次に晴れるまでだらだら待つよりも、この二日間の晴れにかけてもう行っちゃおう。
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 これが今回のコースです! 面白い湖の形だな〜
 普通は3泊4日で行くコースみたいだけど、今回私は2泊3日で頑張ることに決めた。
 2泊3日にすると、20km歩かなければならない日があるのでちょっとドキドキする。だけど多分大丈夫。
 前回の一泊二日の山登りで気づいたんだけど、一人の時の私はただただ黙々と歩くから、そんなにスピードは遅くないはずだから。(誰かと一緒に喋りながら歩いていると、信じられないくらいの遅さなんだけど……)

 情報を手に入れるためにいくつかのワイカレモアナ歩き日記を読んで、公式サイトやDOCサイトも読んで、どんな道なのかをイメージする。それらをまとめて地図を作って、道のりやしなければいけないことを頭に入れて、準備は万端。全部で五つあるこやのうちのどれに泊まったらいいか、とか結構悩んだんだけど、それもちゃんと決めることができた。
 そんな風にあれこれ調べていると、不意に司書さんに声をかけられた。ちょっと前に挨拶だけしたおっちゃん司書さん。
「やあ、調子はどう? 君は白い車に乗っている子だね? 一人なの?」
「うん、そうだけど……なんで知ってるの?」
「昨日も図書館に来たでしょう、一日中いたでしょ。それにさっき車に乗ってる君を見かけたから」
「ああ、なるほど……(ちょっと恥ずかしい)私ね、明日ワイカレモアナを歩くつもりなんだ! それで色々調べていて……見て見て、地図描いたの」
 声をかけてくれた彼の名前はトニー。
 仕事中のはずなのに、トニーは私の隣に座って、私たちはしばらく色々話していた。地元の人ならワイカレモアナについても詳しいかと思ったけどそうじゃないみたい。
 全部歩くには途中で小屋に泊まる必要があってね、多い日には20km歩くんだ、っていろいろ説明したらめちゃくちゃ心配された。
「君が!? 一人で!? 大丈夫なの!? アップダウンのない道なの??」
「多分大丈夫。フラットな森みたいだし、私15kmまでなら歩いたことあるから。それに頑丈な脚持ってるから!」
 ニュージーランドのこと、日本のこと、三週間前にこの辺にできた寿司屋のこと、お互いの仕事や生活のこと……たくさん話して、楽しかった。それはトニーも同じだったみたいで、もうすぐ休憩時間になるからよかったらお昼ご飯は一緒に食べようって誘ってくれた。わ〜……! だけど私はつい断ってしまった。英語が苦手な私と一緒にご飯を食べても楽しくないんじゃないかな……って思っちゃって。うーん、もうすぐ出発しないといけないから、って言っちゃった。だけどその断り文句がうまく伝わらなかったみたいで、もう一回誘われる。「うん? 僕の仕事はもうすぐ休憩になるから、そこらへんでお昼ご飯一緒に食べようよ」その瞬間、あ、この人は多分私の英語がぐちゃぐちゃでも気にしない人なんだな、って気づいた。っていうかここまでも散々ひっちゃかめっちゃかな英語で会話をしているんだから、そっか、気にしなくていいんだ。そう思ったら急に勇気が湧いてきた。いつもならしないことに挑戦してみる気がした。
「うん、じゃあお昼を食べながらまた話そう! 楽しみ!」 一瞬で吹っ切れて、そう言った私の顔は絶対にいい笑顔だったし、嘘偽りなく本当に楽しみだった。

 トニーの仕事が終わるまで待つ間、ワイカレモアナについて調べる作業に戻る。 
 ワイカレモアナ湖トラックは一周じゃなくて半周。半周したらそこから水上タクシーを使ってスタート地点に戻るのが一般的だそうだ。嬉しいことに、ちょうど昨日からコロナの影響で営業を中止していた水上タクシーが再開していた。よかった〜! もし水上タクシーを使わないとなると、来た道をただ引き返すことになる。片道約50kmなので、往復100km近くも歩くことになる……それはちょっと遠慮したいです……
 水上タクシーの予約は電話かメールだったので、迷わずメール。電話は難易度が高すぎです。ところがやりとりをしていくうちに、支払いのために電話をしなければいけないことがわかってきた。「本当にごめんなさい、私喋るのが苦手だから、できれば現金払いか銀行振り込みがいいです〜!」……ってお願いしたけど無理だったのでしょうがなくドキドキしながら電話をかける。英語で電話なんて、財布を探してお店に電話をした時以来だ。その時は全く伝わらず無言で切られたんだったなあ。そしてそれ以来トラウマなんだけど、しょうがない。支払いができないと行けないんだもの。意を決して電話をかける。大丈夫、きっと大丈夫。さっきトニーとも話せたし、大丈夫!
 忙しいようでなかなかつながらず、三回かけてやっとつながった電話。ドキドキしながら話し始める。
「こんにちは。水上タクシーのお金を払いたいです。」
「Kia ora〜(マオリ語でこんにちは)オッケー、あなたの名前は?」
「……ミユキです」
「あっ、あはは」
 いや、なんで笑うんだよ。この人絶対メールでやりとりしていた人だろうな……私が英語下手で電話嫌がってることを知っているに違いない。うう……
 だけど彼女はとても優しかった。はっきりとゆっくりと英語を喋ってくれて、私の英語もちゃんと聞き取ってくれた。それでも私は時々聞き返してしまったけど、その度にゆっくり喋ってくれる本当に優しい人だった。そうしてあっという間に支払いが完了。予めメールでやりとりをしていたから、予約の再確認とクレジットカードの番号と有効期限、名前を言うだけの簡単なやりとりだけだった。
「えっもう終わり? オールグッドなの???」
 あんまりにも呆気なく終わったのでびっくりしていると、電話越しの彼女はケラケラ笑った。
「おしまいよ〜よかったね! 楽しんで〜」
 わ〜いっやった〜! 初めて英語で電話ができた!!!
 あんまりにも嬉しかったので、改めてお礼のメールまでしてしまった。ありがとう。30分の水上タクシーに60ドルも払いたくねえって最初は思っていたけど、こんなに優しくて最高なサービスを提供してくれるなら喜んで払います!
 
 それから小屋も無事予約できて、準備の第一段階が整いました! よかった〜とりあえず一安心。
 そして一時になって、トニーがやってきた。
「お待たせ! じゃあ行こうか。さっき話した寿司屋かKFC、どっちがいい?」
「うーん、じゃあ寿司屋!」
 選んだのは、トニーとさっき話していた寿司屋。最近できた寿司屋があってコリアンが経営してるっぽいんだけど……君はニュージーランドの寿司好き? あの寿司は日本の味と一緒なのかな? って聞かれたのだ。だけど私は外国のお寿司を食べたことがない。そう言ったら、食べてみるべきだよ! ってめちゃくちゃオススメされた。そしてそのお寿司屋さんに早速連れて行ってくれることになった。やったね。
 初めて入る海外のお寿司屋さん。オーペア先のお父さんが海外でのお寿司は基本的には巻寿司だって言っていた通り、巻寿司がズラ〜っと並んでいる。そしてその隣に並ぶのは、おもちゃみたいな寿司達。
 takoyaki、ebi、onigiri……見覚えのある日本語が並ぶものの、これは絶対に寿司じゃない。唯一寿司っぽかったのはシャリの上にサーモンが乗っているものだけ。基本的には揚げた何かが載っている。揚げ魚、揚げ豆腐、揚げチキン、謎の物体、揚げえび、などなど……
「トニーの言った通り店員さんは韓国人だね。でもこのtakoyakiは日本語」
「あ〜、それは先週食べた。柔らかかった」
 そこにはたこ焼きを二つ串にぶっ刺しただけのものが並べてあった。謎だ。
 一応日本食をイメージはしているようで、店内には日本の小物が置いてあったり、日本語が書いてあったりする。
 だけど私はアジアンだからわかる。この店員さんたちの顔はコリアン。しかもさっき、コーヒーのことを「コピ」って言っているが聞こえた。それは旅館で働いていた時に同僚だった韓国人のヘイリンがよく言っていた言葉。


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 ズラ〜っと並ぶおもちゃ寿司達が可愛くて、どれにしようか悩んだ挙句、私は揚げライスボール串とよくわからない魚フライ寿司、それからアボカドチーズみたいなお寿司を選んだ。
 コーヒーも飲みなよ、って言われて久しぶりにフラットホワイトも注文。
 君もいつか誰か旅人に奢ってあげるんだよ、そうやって回っていくんだからね、って言われた。うん、私はその考えが大好き。

 お寿司を食べながら、さらにいろんな話をした。年齢を聞かれて、23歳だって言ったらびっくりしてた。
 トニーには25歳の子供がいて、孫もいるそうだ。
 一人で車旅をしているから30歳くらいかと思ったよ……って感心されて、同じくらいたくさん心配された。親は心配していないのか、昨日はどこで寝たのか、あの駐車場で寝るなんて信じられない危険すぎる! って。はーい……
 トニーはすでに奥さんとは別れていて、今のガールフレンドはフィリピンにいるらしい。国境が封鎖しているから会えなくなってしまい、とても寂しいんだって。海の向こうにいる、いつ会えるか全くわからない恋人。国籍が違うだけで、どんなに頑張っても会えなくなってしまった恋人。そっか、そういう恋人たちが今世界中にたくさんいるんだなあ……と切ない気持ちになる。そして同時に、なるほど……と私は納得していた。
 恋人がフィリピン人。だからこの人はこんなに楽しく私と喋れるんだ。やけに多文化や外国人に理解があるのは、トニーの恋人が外国人だからなんだ。そう思ったらすごく納得できた。
 もちろんフィリピン人は英語が喋れる人が多いから、トニーが英語の苦手な人に慣れているということではない。でも、発音の違いとかを気にしない、英語が苦手だったり文化が違うことに抵抗感がない、というのはこういうところから来ているのかもしれない。
 トニーはガリに挑戦して、あ〜無理だ〜って苦い顔をしていた。
 豆腐の寿司にも挑戦したけどあんまりだったみたいだから半分もらった。揚げ豆腐、久しぶり。美味しい。
 私は当たり前のように端を使ってお寿司を食べたけど、トニーは手で食べてた。箸いらないの? って何気なく聞いてから、いや違うこの人たちは箸を使わないんだ! って気づいた。僕にはそれは難しすぎる……とトニーは言った。なるほど、そういえばここはニュージーランドでした……

 英語でこんなにゆっくり人と話したのはカレンの家で過ごしていた6月以来。約3ヶ月ぶりの英語は思っていた通りずっとずっとずっとダメダメで、だけどトニーと喋ったおかげで一つだけ思い出したことがある。
 私がどんなにひどい英語を喋っていたって、気にしない人は、気にしない。
 そうだった。ここ最近、伝わらないこととかすぐに会話を切り上げられちゃうことが多くて忘れていた。思いを込めて話せば、聞いてくれる人にはちゃんと伝わるのだ。

 一時間の休憩時間、めいいっぱいおしゃべりをして、ハグをして別れた。月曜日にまた会おうね、写真撮ってきてね、またね、って。

 出発する前にお店に寄った。車を停めていた通りの向かいにある、昨日から気になっていた古着屋さん。


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 のぞいてみたら、可愛いスカートみたいなのがあった。
 いや、これはスカートじゃなくてただの布か……? と手にとって悩んでいると、店主のおばあちゃんがやってきた。
「これ可愛いんだけど、なんだろう?」
「テーブルクロスだね」
「あ〜……スカートかと思った。可愛いスカートだなって思ったのに」  
 そういうと、おばあちゃんは大きなビニール袋を取り出して私に渡す。
「スカートなら店の外にあるよ。この袋いっぱいで10ドル。通りにあるものなんでも詰めていいよ。後レモンも持ってって」
 えっ、この大きなビニール袋いっぱいで10ドル!? それは破格すぎる。いや、でもそんなにいらないんだけどなあ……と思いつつも一応袋を受けとって通りに置いてあった洋服を眺める。好みのスカートはなかったけど意外といい服があったので買うことにした。
「それだけでいいの? もう少し見てなさいな。あんた旅人? 何して過ごしてるの?」
「じゃあこの人形も買おうかな……えっと、今は北島回ってて、明日ワイカレモアナにいくの」
「ワイカレモアナ! あそこは寒いよ。ジャケット(セーターのこと)が必要だ、もっと持って行きなさい」
 結局袋をいっぱいにすることはできなかったけど、ズボンを二枚とセーターを一枚、カーディガンにマフラー、人形、帽子などを買ってしまいました。最近ずっと同じ服でちょっと飽きてきた所だったし、春だし、いいよね。

 それからスーパーで湖歩きのための買い物をする。トニーと話してからというもの、英語で喋ることに抵抗感がなくなっていて、迷うことなく自然に店員さんと話すことができた。ガス缶ありますか? って。簡単な質問なんだけど、いつもはためらっちゃうんだよね……そしてやっぱりスーパーにはやっぱりなかったけど、代わりに売っているお店を教えてくれた。よかった〜こういう小さい町だと、どの店に行けば置いてあるのか私にはわからなかったのです。チョコバーやパンなどの買い物を終えて、ガス缶を買いに別のお店にいく。ガスは入ってすぐのところに置いてあった! 早速ガスを持ってレジにいく。
「いらっしゃい〜ガスだね、キャンプするの?」
「うん、明日ワイカレモアナに行くんだ!」
「あ〜それはいいね。綺麗なところだよなあ」
 明日からの湖歩きが楽しみな気持ち、そしてトニーと過ごしたお昼が楽しかった気持ち。その二つの嬉しい気持ちがにじみ出ているのか、どこに行っても自然と会話ができる。にこにこが止まらない。久しぶりに、ふわふわした嬉しい気持ちでいっぱい。

 治安が悪いからよくないよって言われたこの町で、私は今までで一番ひとと話して楽しい気持ちでいる。この嬉しい気持ちのまま、明日のワイカレモアナも楽しめますように!

 公園で水を汲んで、WiFiを使って湖歩き用の音楽をダウンロードしてからワイロアを出発。明日から歩き始めるから、今日は湖畔のフリーダムキャンプ場で一泊するのです。


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 一時間ほど車を走らせて、ここで本当にキャンプしていいの? っていうくらい何もない場所に車を止める。最終的に二台の別の車が来たけど、そこまで一人でちょっと不安だった。でも大丈夫そう。今日はここで寝ます。

 夜、雨が降ってきた。
 風も強くて車が揺れる。
 今までに体験したことがないくらいめちゃくちゃに揺れるので不安になって何度も起きてしまう……

 明日は本当に晴れるんだろうか。心配になってしまう。朝起きたらぴっかぴかの空が待っていますように!