車中泊日記inニュージーランド

【北島一周】今日の朝、世界で一番最初に焦っていたのは私だったかもしれない【48日目】

 

 ここはニュージーランドの中でも最も日付変更線に近い東側。
 ニュージーランドは日付変更線に最も近い大きな国とされているから、(本当はキリバスなどの小さな島の方が近い)実質ここで見る朝日は世界で一番最初の朝日らしい(?)。
 ということで世界で一番最初の今日の朝日を見るために、朝日を見るのにいいスポットとされている灯台に向かうべく朝5時に起きて、準備を整えて、灯台へ向かった……はずだったんだけど。

 はずなのに、わたしは今人生で一番の窮地に立たされている。

 朝5時半、まだほとんど真っ暗なこの場所で、わたしとグラ子(車)はうっかり坂道を後ろ向きに滑り落ちて丸太にぶつかり、斜め状態で停止しているのだ……意味が分かりますか!?!?!?
f:id:noca_m:20201005064509j:image
 もちろん悪いのはわたし。真っ暗でよく見えず、砂利道をそれて芝生でできた坂道を登ってしまい、途中で滑って登れなくなり、そのまま後ろ向きに落ちていってしまったのだ。落ちている間、本当に怖かった。後ろ向きにひっくり返ってしまうんじゃないかとハラハラしつつ、どうしようもなく、ただツルツル落ちて、ガタン! と止まった。
 そして車は全く動かない。前に進まない。左にも右にも行かない。少し動くだけでどんなにアクセルを踏んでも進まないのだ。
 不安と焦りの中、少しずつあたりが明るくなってくる。外に出て様子を見ると、「うわあ〜やったな」と言う感想しか出てこない。ぬかるみにハマったわけではないけれど、前輪は泥の上でただスピンしているだけ。朝早くからうるさくしてみんなを起こしてしまうわけにも行かないので、とりあえず車に戻って運転席に座ってみる。
 座席の角度がおかしすぎる。
 ジェットコースターの、これから落ちますよ〜〜って言う直前みたいな角度をしている。全く落ち着かない。やばいってことがひしひしと伝わるだけ。

 一応スマホを見てみる。当然電波はない。
 このキャンプサイトにいる車はわたしの他に3台。
 これからどうなるんだ、どうしたらいいんだ、どうしようどうしようどうしよう!
 何回か試したみた感じで、わたし一人ではどうしようもなさそうだと言うことが完全にわかっている。どうしよう。

 とにかく落ち着きたくて、相棒のぬいぐるみを抱きしめる。
 マクラメを手にとってひたすら頭を動かしながら石を包む。
 どうしよう、どうしたらいいんだろう、運だけはいいと思っていたけどついにやったな、わたしとグラ子の旅もここまでか……と、どんどん落ち込んでくる。
 歩いていて車の鍵をなくした時も、パスポートやカードをなくした時もここまで焦らなかった。どちらも最悪自分一人で対処することができることだったからだ。
 だけど今回はどうしたって誰かに頼らなければいけない。
 英語も不安だし、頼ったところでどうやってグラ子が元どおりになるのか全くわからない。
 それくらいやばい状況だ、ということしか分からない……

 日本だったら警察を呼ぶのかもしれないけれど、ニュージーランドでもとりあえず呼ぶのは警察でいいのか、それとも警察ではなくて直接レッカー車を呼ぶべきなんだろうか。いくらかかるんだろう。この住んでいる人がほとんどいないような偏狭の地で、どのくらい待たされるんだろう。
 っていうか電波ないし。呼べないし。
 とにかく誰かが起きるのを待つしかない……

 朝6時半ごろ、ゆっくりと朝日が顔を出した。

f:id:noca_m:20201005122924j:plain

 本当だったら灯台に登ってみるはずだった朝日を、わたしは今窓から眺めている。あり得ない角度で。
 涙が出てきそうだったけど、泣いてもどうしようもないってわかっているから泣けない。
 とにかく悲しい気持ちとやばいな〜というどうしようもない気持ちでただじっと朝日を見ていると、向こうのほうでバタン、と音がした。音のする方向を見ると、泊まっていた人たちが朝日の写真を撮っているの。
 ついに起きてくれた! 
 だけど楽しそうに朝日を撮っている今、邪魔するのは気が引けてしまう……などと考えていたら彼らは車に戻って行ってしまった。
 そうだよね、わたしの車がどんなにやばい状況になってても、彼らがみているのはあくまで朝日であって、気づかないよね……
 どうしよう、車に突撃するか? いや、二度寝に走ったかもしれないし、どうしよう、でも当たって砕けろだよね、いや、どうしようどうしようどうしよう、、、、
 と頭をぐるぐるさせていると、トイレに向かう夫婦の姿が見えた。

 よし、行こう。
 緊張する気持ちでいっぱいのなか、先にトイレを出た旦那さんに声をかけた。
「すみません、わたしの車は今スタックしています。わたしはどうしたらいいのか分かりません。もし今日町に行くようだったら、警察を呼んできてくれませんか?」

 そこから先のことは、とても長くてとても大変で、ここには全部書ききれない。

 その旦那さん、ブルースはまずわたしの車の様子を見てくれた。そして動かそうと車のエンジンをかけて、何度も挑戦してみてくれた。奥さんであるソウも一緒に手伝ってくれた。
 芝生と泥のせいでタイヤが滑って空回りしているのをなんとかするために、私たちは端に積んであった砂利をタイヤの前にしきつめた。
 丸太に食い込んだ車の後ろ部分を剥がすために木の板を使ってテコの原理で浮かせた。
 それらはわたしには気付けなかったこと、思い付けなかったことだった。
 わたしは車の知識もなければ不安でいっぱいで頭も回らず、英語も拙くて、本当にどうしようもなくて、そんな時彼らはとにかく本当にいろいろ考えてくれて、助けてくれて、何よりもわたしのことをずっと励ましてくれていた。

 夜明け直後の、とても寒い朝だった。
 最初にソウに会った時、彼女は本当に不安で半泣きのわたしのことを抱きしめてくれ、寒くない? 洋服足りてる? と心配してくれた。そして、大丈夫、きっとなんとかなるよって何度も何度も安心させてくれたのだ。
 私たちは3人で、約一時間近く動かすために頑張った。朝の6時半から、ずっと。
 見ず知らずのわたしのために、彼らはただただたくさん助けてくれた。
 砂利を引いて、車の後ろをを木の板で持ち上げて、持てる限りの全ての力で押しながらエンジンをかける。全力で押したら、滑って転んでしまった。
 滑って転んだわたしを心配したソウに、ミヌキは見てていいよ! って言われながらもひたすら頑張った。

 それでも、どうしても無理だった。彼はわたしに言った。
「警察よりも、ここの持ち主に連絡しよう。ここのオーナーは牧場主だから、なんとかしてくれるかもしれない。僕たちの車に乗って、一緒に電波の入るところまで行こう」
 どこまでも親切で、本当に優しくて、わたしはもう泣きそうだった。
 初めて大きなキャンピングカーに乗った。滑って転んだわたしは泥だらけで、申し訳なくて、だけど気にしなくていいよ〜ってソウは笑ってくれた。

 そしていざ出発しようとキャンプ場の上に上がった時(私たちは下の方にいた)ふとソウが気がついた。
「見てミヌキ! こっちには若い男の子が四人もいるね……もしかしたら、彼らが押せば動かせるかもしれない」
 そう言うや否やソウとブルースは彼らのところに話をしに行ってしまった。
 そしてしばらくして戻ってきたソウはニコニコしながら私の手をとる。
 「手伝ってくれるって! 試してみましょう!」
 本当に感謝しても仕切れない……
 そしてわたしたちはまた丘を下り、やばい状態のグラ子のもとへいく。何度見ても角度がおかしすぎてやばい。
 そんなグラ子の状態を見た若者〜ズも「うわ〜」「やば〜」と口々に言いながら車に手をかける。
 情けない気持ちと不安の気持ち。ここまでたくさん頑張ってきたのにダメだったから、きっとダメだろう。それでもやってみてくれる彼らへの感謝の気持ち。
 いろんな気持ちで頭と心がいっぱいだった。ずっと。

 ブルースが運転席に乗り込む。
 エンジンがかかる。

 3人で何度も試したけどダメだったグラ子。
 力のある男の人たちが押したからって、なんとかなるんだろうか。
 不安な気持ちと感謝の気持ちでもういっぱいいっぱいのわたしにソウはずっと寄り添ってくれた。

 ブルースが「それじゃあ行くよ!」と叫ぶ。
 「3、2、1!」
 誰もが全力で頑張ってくれていた。
 わたしとソウが見守る中、そこにいた全員が本当頑張って、めちゃくちゃ押して、、、

 そしてなんとなんとなんと、グラ子はついに動いたのだった。

 !!!!
 動いた!!!!!!!!
 そして一気にグラ子は発進し、ブルースの華麗な運転捌きによって、なんとなんとなんと約2時間ぶりにグラ子が走ったのです!!!!!

 やった〜! という声が上がる。わたしはもうどうしようもなくて、嬉しさと感謝とずっと張り詰めていた緊張と不安が解けたあとのどうしようもない気持ちでいっぱいになって、ソウに抱きしめられながら泣いてしまった。

 ありがとう、ありがとう、感謝でいっぱいです、わたしは絶対に感謝の気持ちを伝え切れないです、って持てる限りの英語を使いまくる。本当にありがとう、ありがとう、って。
 今まで泣かなかったのに、もう涙が止まらなかった。
 見て見てミヌキが泣いてるよ〜ってソウはけらけら笑ってた。
 世界で一番最初に朝が来る場所。

 手伝ってくれた四人組の若者〜ズはキウイの子が二人と、フランスとスコットランドの旅人だった。
 二人が海外からの旅人だって知ったブルースは、「君たちはCOVID-19のせいでスタックしているの?」と質問した。そしてフレンチの男の子が答える。
 「ワーホリだから一年間は居られるんだ、だからもともといる予定だったんだけど……ある意味今僕らはスタックしているね……実はバッテリーがあがっちゃって車が動かないんだ。それで友達が助けに来てくれたんだけど、相変わらず動かなくて……」 
「「「……」」」
 ソウして、優しいブルースはバッテリーが上がった彼らを助けるために、早速彼らの車へ向かった。
 朝からこんなにも大変な人助けを連続ですることになるなんて……ブルースとソウに、たくさんのいいことがありますように。

 そして残されたわたしとソウ。
 どうしてもお礼がしたくて、言葉だけでは伝え切れないなって思ったからちょうど持っていたプルーンをあげたら笑われた。

「いらないよ。食べ物いっぱい持ってるから大丈夫。
 それにね、わたし達はミヌキを助けることができて本当にハッピーなの。
 だからそれでいいの。
 ほら海と空を見て、今日はとっても美しい日でしょう。
 私たちはハッピー、あなたもハッピー。
 そしてまた灯台で会いましょう! See you soon!!」

 かっこよすぎる、優しすぎる… …本当に本当に最高の人に出会ってしまった。
 治安が悪いから行くのはやめといたら? とまで言われたこの場所で、最悪な状況にあって、それでも今私の心はあったかい気分でいっぱいだった。
f:id:noca_m:20201005064545j:image
 そして約一時間後、私たちはまた灯台で会った。
「Hello again!!」
 ソウとブルースを待っている間、わたしは彼らの絵を描いていた。
 それを渡して、改めてお礼を伝える。
 ミヌキはアーティストだったの!? 可愛い絵!! と、とっても喜んでくれて嬉しかったな〜
 そして一緒に写真を撮って、ここで初めてお互いのことをゆっくり話す時間を持てた。
 彼らは南島のネルソンっていう町(わたしが南島で一番大好きな町!)からやってきた旅行者だった。コロナの影響でレンタカーがめちゃくちゃ安くなったから、いい機会だな〜って思って、まだ来たことのなかったイーストケープにやってきたらしい。
 いろんな話をした。
 わたしはこれからヒクランギ山に登る予定だから、もう行かなくちゃ! って別れるまでたくさん話をして、最後に何度もハグして、「あなたなら大丈夫よ、気をつけて、旅を楽しんでね!」っていう笑顔と共に送り出してくれた。

 本当に大変な一日の始まりだったけど、こうしてまた無事にグラ子と一緒に走ることができて本当に幸せだ。そしていつもながらとても恵まれているなあ。


f:id:noca_m:20201005074328j:image

f:id:noca_m:20201005074333j:image

 以上、世界で一番最初に朝日を浴びる灯台へ辿り着くまでの道のりでした……

 このあったかい気持ちを感謝を忘れずにヒクランギ山へ行こう。

 ヒクランギ山は標高がとても高いから、世界で一番最初に夜明けを迎える場所でもあるとされている。(時期にもよるし諸説ある)
 そしてマオリ族、特に地元のナガティ・ポロウ(Ngati Porou)の人々にとって文化的にめちゃくちゃ重要な場所かつ神聖な山なのだ。高さ1,752 mのこの山はマオリの神様マウイが北島を漁っていた時に、アオテアロアの最初の部分が海から出てきたという伝説があるらしい。
 そんな山が一般的に開放されているなんて嬉しいしぜひ登りたいな〜!
 このコースは初日に約四時間歩き、ハットに一泊し、朝日に合わせて二時間かけて山頂に登ってかえる一泊二日の山登り。最後の400mがめちゃくちゃ危ない上に標識がなくて迷いやすい、気をつけないといけない……けど、私ならきっと大丈夫!
 とっても楽しみだ、天気も二日間快晴だし、楽しみだな〜〜!

 と思っていたら、なんと、コロナの影響でハットが閉まっていた……
 ええ〜……
 マオリの人たちにとって大切な場所だから、ってたくさん調べたのに。
 残念だけどしょうがない。

 予定がなくなってしまい行くあてもなくずるずる先へ。

 


f:id:noca_m:20201005074703j:image

f:id:noca_m:20201005074708j:image

 時系列はちょっと違うんだけど、灯台に一番近い集落にある観光地のひとつです。
 ニュージーランドで一番古いpohutukawaの木を見ることができる場所。って言っても初めて聞いた木の名前だったんだけど……とーっても大きかった。そして看板が可愛かった。
 車を停めて写真をとっている時、馬に乗った兄弟がのんびり横を歩いて行って、すごく不思議な気持ちになった。馬のある生活って、考えたことなかったなあ。

  次は、ニュージーランドにあるキリスト教会の中でも特にマオリ文化が混じっているという教会へ。
 入ってすぐにあまりの綺麗さにため息が出た。

f:id:noca_m:20201005074829j:image

   本当に美しい……
 椅子も窓も、木造でできている全ての模様が見たことのない美しさで、丁寧に作られていて、大切にされていて。

f:id:noca_m:20201005074806j:plain



 ニュージーランドで見た建築物の中でも一位、二位を争う美しさだった。
 外からやってきた違う宗教をこういう形で受け入れた人たち。排除するでもなく、自分たちの文化と混ぜ合わせながら生活していたひとたち。もちろん今も。
 そのことがとても美しくて、とても優しい気持ちにさせられた。


f:id:noca_m:20201005074905j:image

f:id:noca_m:20201005074736j:image

  行きにくい場所ではあるけど、絶対におすすめしたい。本当にいい。

f:id:noca_m:20201005074148j:image


f:id:noca_m:20201005074249j:image

f:id:noca_m:20201005074253j:image

  古くて長い木製の橋。封鎖されていて先には行けなかったけど、景色が綺麗だったのでお昼ご飯食べた。

f:id:noca_m:20201005074356j:image

 次は気になっていた散歩道へ。ガソリンぎりぎりのなか数十キロ走ったのに、なんとキャンプサイトも散歩道も封鎖されていて悲しかった……
 いい海辺らしいけどビーチにも行かなかった。歩きたかったなあ。

 


f:id:noca_m:20201005074427j:image

f:id:noca_m:20201005074423j:image

 次はニュージーランドで一番長い浅橋、トラガベイへ。660mもある橋なんだって。
 入り口のマオリの門がとても綺麗だった。橋の上には地元の人かな? 釣り人がたくさんいました。


f:id:noca_m:20201005074519j:image

f:id:noca_m:20201005074523j:image

 橋歩きは右も左も綺麗な海できれい。そして大きな岩があって景色がとてもよかったな〜
 ただ悲しかったのはここの散歩道が羊の出産の時期のために閉鎖されていたこと……!!!!!! これは超ショックでした。かなり楽しみだったのに……しょうがない。しょうがないけど、しょうがないけど……

 散歩ができなかったことで暇になってしまい、ただただ進みまくります。
 海辺で休憩してみたりしつつ……

 本当はあと二日くらいかけて到着する予定だったギズボーンに着いてしまいました!
 急に街に来てしまったので何をしたらいいか分からず、とりあえず図書館へ行くもののWi-Fiが微妙すぎたので適当に散歩。
 大きな丘があったので登りました。地元の人たちの散歩コースみたい。見晴らしのいい上まで車で行けるけど、みんなひたすら道路を歩いているので私も真似して一緒に道路を歩いてみました。


f:id:noca_m:20201005074557j:image

f:id:noca_m:20201005074601j:image

 道路歩き、思ったより楽しかった。陸上部の子供たちが走り込みしてて、なんか懐かしい気持ちになったな。

f:id:noca_m:20201005123003j:plain
 これがギズボーンの街か〜〜
 ワインで有名らしいです。めちゃくちゃでかい街、というか市です。時計台がシンボルみたい。
 でもギズボーンには安いキャンプ場がないので滞在せずに移動します!! 本当はひとつあったんだけどいっぱいだったんだよね……しょうがない。

 このあとキャンプ場を求めて彷徨い、最終的に来た道を50分引き返すという阿呆をやりつつ、とにかく疲れた一日でした……
 朝あんなことがあったとは思えない忙しい一日だった。

 今日の移動距離は約400I'm 、運転時間は5時間越えです!!! ガソリン代バカにならないよ〜〜……