【北島一周】一日図書館【5日目】
グレーゾーンの夜を超えて、朝が来た。
港のはずだけど、船とかは特に来ないみたい。
むしろ普通の公園っていう感じで、散歩をしている人たちがいる。
あまり危険性を感じなかったので、なんだかんだ九時ごろまで滞在してしまった。
少しだけ車を動かして公園のほうに停め、朝日をいっぱいに浴びながら朝のストレッチ。
ついでにお湯を沸かしてパンを一枚だけ食べた。
今日も晴れてていい感じ!
ストレッチをしている間に少しだけ雨が降ったけど、やっぱりニュージーランドの雨はいいなあ。
今この場所で雨が降っていても、向こうのほうは晴れているのが見える。晴れたり雨が降ったりが多いから虹もすぐ出る。
私は曇りの日がどうしても苦手だから、晴れか雨が多いニュージーランドが大好きだ。
九時に図書館が開くので早速図書館へ。
午後から曇ってしまうようだから、ちょっとだけ充電とWiFiを拝借したらすぐに出発してどこか歩いたりしたいな。
と思っていたんだけど、気付いたら四時半になっていた。
……
今日もめちゃくちゃいい図書館だったから、つい……
途中お腹が空いて車に戻って蜂蜜チーズパン類を食べたりした以外、ずーっとソファに座っていた。
すごくいい図書館だったんだもの……ソファは気持ちがいいし、窓が大きくてお日様がいっぱい入ってくるし。十時ごろには子供と親のためのプログラムが開かれて、歌や踊りを隅っこの方でみんなが楽しんでいて。ニュージーランドの図書館はコミュニティーセンターのような役割を果たしていることも多いからか、そういうプログラムがよく開かれているんだ。他にもマオリ語を学ぶプログラムだったり、編み物だったり、チェスの会を見たこともある。
図書館だけで1日が終わってしまった……!
本当はカウリブッシュウォークというところに行って1日を終えようと思っていたんだけど、午後になったら生憎の悪天候。
大粒のヒョウやら雨やらが降りまくっているので、さっさとキャンプサイトへ行くことにした。
オフィスに行ったら愛想のあまり良くないおばちゃんが対応してくれた。私が紙に必要事項を書き込んでくる間、ふと話しかけられた。
「どこの国から来たの?」
「え?」
「ああいい、書いて書いて」
突然話しかけられてびっくりしつつ顔を上げるも、手を止めないよう促される。フレンドリーなんだか愛想が良くないんだかわからないな……しょうがないから書きながら
「日本から来たよ」と答えた。
「日本のどこ?」
また質問だ。つい顔を上げて「えーっと……」と考えるものの、またすぐ
「手を止めないで、ほら書いて!」
と言われる。
慌てて視線を紙に戻しながら「東京の近くだよ」と答えた。
「東京か」とおばちゃんは呟く。私は紙を書き終えておばちゃんに渡した。
紙を受け取りながら急におばちゃんが喋り出した。
「ほらあれを見てみな、あれ日本語だろ?」
そう言われて振り向くと、確かにドアの横に日本語が書いてある木の板が飾られていた。
ありがとう、から始まる詩とお地蔵さんみたいなニコニコした丸っこい男の子が筆で書かれた、お土産屋さんとか旅館によく飾ってありそうなやつ。
「ハッピーな詩が書いてあるよ。なんで持ってるの?」
「私ね、日本人の孫が四人いるんだよ」
「えっ本当に!?」
相変わらずにこりとも笑わないおばちゃんは、ただただ立て続けに話だす。
「明石ってところにいるんだよ。日本の西の方の」
「知ってる、行ったことあるよ。大阪の近くでしょう」
「そう、車ですぐ大阪に行ける。あと神戸とか、あの、城とか……」
「姫路城だね、知ってるよ。真っ白なお城」
「そうそう。息子が高校で英語教師をやってるんだよ……」
相変わらずろくに話せない私なのに、全く気にせずペラペラ喋ってくれる。にっこりともせず、でも嬉しそうなのが伝わってきた。
一区切りついたところで、二人でもう一度木の板を眺めた。
「素敵だね」
なんて言ったらいいのかわからないからそう言っておいた。話してくれてありがとう、と、いいキャンプサイトだねっていう気持ちを込めて。
「ここでの時間、楽しんで」
おばちゃんは最後にそう言って、ドアのところまで私を見送ってくれた。
「……ちょっと待って、私まだお金払ってないよ!!」
ああうっかり、という顔でおばちゃんは「つい話すぎちゃったねえ」と最後に笑った。
一晩15ドル(訳1000円)で、シャワー・キッチン(充電箇所有)付き。充分すぎる。
ますます先日過ごしたPIHAキャンプ場が高く思えてくるよ……
今夜は私の他にもう二台キャンピングカーで泊まっている人がいて、あとはコテージ滞在をしている家族が数家族。
そのうちの三家族くらいは長期滞在のように見えた。
本当に小さいキャンプサイトだからほとんど満員。夏は大変だろうなあ。
私はちょうど一台止められるいい感じのスペースを見つけることができて、ゆっくりできた。
夜はシャワーに入ったり料理をしようかな? と思っていたんだけど、友だちと電話をしていたら思いの外遅くなってしまったのでさっさと寝ることにする。